国民医療費の総額は、37兆円(平成23年度37.8兆円)を超え毎年3-3.5%の増加をしています。巨額ですが、OECDの統計では、OECD加盟国の中では対GDP比較で日本の医療費は低率です。
表:医療費の伸び率(対前年度比)
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平成18年 |
平成19年 |
平成20年 |
平成21年 |
平成22年 |
平成23年 |
% |
0.1 |
3.1 |
1.9 |
3.5 |
3.9 |
3.1 |
平成23年度 医療費の動向 MEDIAS
しかし、国民医療費を考える上では統計上一体何が計上されているのか知る必要があります。以下の表に含まれる費用と含まれない費用の概略を示します。
<含まれるもの> |
医科診療や歯科診療にかかる診療費、薬局調剤医療費、入院時食事・生活医療費、訪問看護医療費等 |
<含まれないもの> |
1)評価療養(先進医療(高度医療を含む)等)、選定療養(入院時室料差額分、歯科差額分等)及び不妊治療における生殖補助医療 2)完全自由診療費用 3)傷病治療以外の医療費用 [1]正常な妊娠・分娩に要する費用、[2]健康の維持・増進を目的とした健康診断・予防接種等に要する費用、[3]固定した身体障害のために必要とする義眼や義肢等の費用 |
認可制度に基づき実施されている上記1)を除くと後者の統計に含まれない費用の総額については、正確に集計することは困難です。従って、全てを含めた国民の総医療費を把握することも困難な状況です。
既に「公的健康保険と免責導入」で紹介したとおり、現在公的健康保険で提供されているサービスも縮小する可能性があります。また「世界の公的健康保険とHTA」でも説明しましたように今後急速に高額医療技術が導入され、公的健康保険でカバー仕切れなくなる可能性が高くなっています。特に高額薬剤の出現は、その状況を加速しそうです。つまり、日本でも薬剤給付について、どの程度健康保険で給付していくべきか本格的に検討が進むはずです。したがって、35兆円に計上されている費用の内訳として薬剤費用がどの程度なのか示しておきましょう。
表: 薬剤費の割合
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2001 |
2002 |
2003 |
2004 |
2005 |
2006 |
2007 |
2008 |
2009 |
% |
22.2 |
22.2 |
23.1 |
22.9 |
23.9 |
23.1 |
23.4 |
23.3 |
24.6 |
JPMA news Letter No152(2012/11)
これまで民間保険は評価療養や選定療養の一部の費用をカバーしてきていましたが、今後は益々37兆円の費用だけに注目することなく国民の医療費支出全体を俯瞰しながら、サービス提供のスタンスを考えていく必要があります。不妊治療の費用や健康増進のための予防医学的費用などが注目を集めるはずですが、表に示した薬剤費用の総額と公的健康保険で給付しきれなくなる薬剤給付の保障について準備しておく必要がありそうです。仮に薬剤給付が健康保険適用外となれば、その規模は37.8兆円x24.6%=9.3兆円になります。現実に全面的に適用外なることは考えられませんが、軽症の慢性疾患に対する薬剤が適用外になっていくことは、民間保健会社も真剣に考えておく必要がありそうです。
最近スイッチOTC薬となったエバデールという高脂血症の薬剤は、高脂血症患者の多数に投与されてきた薬剤です。また日本国民における高脂血症患者の有病者率を考えるとスイッチOTC薬として承認されたことは、今後の公的健康保険における薬剤費支出を考える上で大きな意味を有しています。スイッチOTC薬とは、処方箋が必要だった薬剤が、一般医薬品として市内の薬局で購入できるようになった薬剤です。すなわち、適用外薬剤としての薬剤を増やすのではなくて、医療機関を受診して手間を掛けて薬剤をもらうのか、近くの薬局で手間を掛けずにもらうのか個人の選択に委ねられることになります。今後、医療費削減を目指して、スイッチOTC薬は拡大していくはずですが、更に、ネット販売が許可されるようになれば、医療機関受診の手間と比較してはるかに手間の不要なネット購入へ弾みがつくとの思惑があるはずです。
表
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処方薬 |
OTC薬(一般医薬品) |
処方箋 |
必要 |
処方箋不要 |
薬剤費 |
患者自公負担3割 |
全額自己負担 |
初診・再診料 |
必要 |
不要 |
公的健康保険の給付 |
有り |
無し |