福島原発事故、賠償関係に関する財政支援、電力料金の値上げと一連の東京電力病院(以下東電病院と略す)を巡る報道の中で、東電に対して社会からの厳しい批判の声が上がりました。東電もリストラや資産の売却案を取りまとめましたが、電力料金値上げ申請に対して主要株主である東京都を代表して当時の猪瀬副知事から東電病院が存続することについて強い批判の指摘を受けました。この期に及んで電力会社として贅沢品である病院を保有することについての批判でした。しかし、社会の受け止め方は少し異なっていました。東電病院が、社員とその家族しか診療しないクローズドの病院だったことに驚きを持って受け止められたのです。
東電病院は、企業内病院です。東電は株式会社であり、株は一部上場され市場で売買されていたのです。東電は株主の利益を最大に考える企業だったわけです。このような営利企業が医療機関経営をすることは基本的に禁じられています。医療機関は、患者の福利を最大の目標にしなければならないことは当然ですが、株主の利益の追求と合致しない弊害があるためです。すなわち、日本では営利企業の医療機関経営禁止が医療における3大規制のひとつになっています。これに対して、病院経営の視点では株式会社に転換できればこれまで以上に資本調達の自由度が向上するので規制を撤廃してはどうかという声もあがっています。では、何故東電病院のような企業病院が存在できるのでしょうか。基本的に営利企業が医療機関を経営できませんが、社員の福利厚生健康増進に限って許されてきたのです。このような例外的な医療機関の開設認可が下りているのです。病院はともかく多くの企業には、企業内健康管理室や診療所が開設されています。開設とは行政から開設認可を得ており、多くの場合企業自身が開設者になっています。管理責任者は、常時管理することのできる医師が登録されているはずですが、このような企業内診療所の場合、診療の対象者は社員に限られるので、株式会社にも開設が認められています。逆にこのような診療所は常時一般住民の診療を行うことはできません。
現在企業内病院、すなわち株式会社が開設している病院は、昭和23年当時認可されたものが、ほとんどで電電公社や民営化された後にそれまでの逓信病院が、株式会社立病院になっただけです。次ページに一覧表を掲載しておきます。このような病院のほとんどが、本来社員を対象にしか診療ができないのですが、現在ではオープン化し、一般住民も受け入れて診療をしています。しかし、東電病院は原則を守って社員とその家族に限定してきたことが、逆に国民、特に東電の電力配給地域の住民から批判を招いたのでしょう。原則を遵守したことが、思わぬ批判となりましたが医療規制を理解していればクローズド運営は仕方がなかったわけです。猪瀬知事の批判は、そのようなクローズドの病院を保有し続けることが、このような原発事故の不祥事を招いた企業にとって贅沢だという指摘です。経営再建への企業努力が不足していたわけです。落雷事故の調査分析と救命医療に関しては、有名な病院でしたが、ようやく売却になるようです。
このように、東電病院問題を契機として改めて医療規制の一つである株式会社の医療機関経営について考えさせられるのです。日本は人口に比較して病院が多く以前は9000以上ありましたが、現在減少傾向にあります。当然経営難から病院経営を諦めた病院も多いのですが、そのような間隙を縫うように民間企業が経営権を占有する事案もみられ、営利企業が医療機関を経営する弊害が見て取れます。米国では医療機関の経営は株式会社に認められていますが、よい医療すなわち患者の利益を追求しなければ、患者に選ばれる病院として存続できないため株主利益の追求と患者の利益は調整が可能のようです。この機会にどのような医療機関経営がよいのか考えて見るべきでしょう。いずれにしても、医療規制はTPP交渉でも問題になる可能性があります。株式会社による医療機関経営が認められれば、自由診療主体の診療が蔓延する、民間保険会社と提携してマネージドケア(患者の了解を前提に医療機関と保険会社で提供する医療サービスの範囲を予め決定すること)が導入され、公的健康保険の存続に影響を与えるのではないかという懸念もある状況です。医療規制の今後を東電病院問題やTPP交渉行方と合わせて見守りたいと考ええます。
民間保険業界は、国民の信頼を得るためにマネージドケアに組するつもりがないことを宣言しつづける必要はあるでしょう。すでに、例外的ですが、特殊ながん保険でそのような商品を開発した会社もありますが、損保の商品であり幸いなことに販売も多くないようです。単なる商品の開発ではなく企業姿勢を明確にした上で販売方針を公表すべきでしょう。国民の意思に反してもマネージドケアがよいならば、そのような主張を聞きたいものです。
株式会社設立の病院