先進医療の中に粒子線治療や重粒子線治療が認められ、患者の自己負担が300万円もかかる医療として注目を浴びています。また民間保険会社は先進医療特約を付加できることと粒子線治療の高額利用費が保障されることを強調して、様々なCMやパンフレットが作成されています。
民間保険会社が上皮内がんを保障することで消費者に、上皮内がんはがんと同じで恐ろしい病気だ、がんと同じで医療費がかかるという誤った認識を受け付けてしまった点について保険会社は真摯に反省しなくてはなりません。これと同様に粒子線への保障提供が、粒子線=高い医療=良い医療という誤ったイメージを消費者に醸成してしまう問題が懸念されています。
消費者の皆さんからすると保険募集人の力量つまり適切な説明ができる募集人かどうかを見極めるためには、上皮内がんの説明と粒子線の説明を聞いてみるとよいでしょう。
さて、粒子線の治療ですが、医療技術の進歩および高額医療の象徴として語られています。確かに300万円近いので高額には違いありません。まず理解しておかなくてはならないのは、先進医療は試験的医療(保険外併用が認められている評価療養に位置づけられ、あくまで保険適用すなわち将来患者の自己負担が3割で済むのか確認するための医療行為)であることを理解しなくてはなりません。したがって、治療効果は現在検証中です。
外科の先生が、手術を勧めるように、放射線専門の先生は放射線を勧めます。また同じ放射線の先生でも粒子線治療施設に所属される先生は粒子線の医療効果を宣伝されます。(粒子線治療を勧める先生は、何と比較して効果がよいと説明しているのか見極める必要があります。)
しかし、治療における良否は、治療効果についてきちんと比較検証(専門的にはランダム化比較試験RCT)されているか、効果があった場合でも医療費コストについて確認されていなければなりません。
そもそも粒子線が治療に導入されてきた大きな根拠は、粒子線の物理特性です。専門的なので省略しますが、悪性組織に重点的に放射線照射が可能で周囲臓器への放射線被曝が少ないという点です。すなわち治療効果が高く副作用が少ないとの想定で普及してきています。確かに、従来の放射線治療と比較して治療メリットがあることは事実です。ここで強調したいのは「従来の放射線治療と比較して」という部分が重要です。
しかし、従来の放射線治療も進歩して高精度X線外部照射が保険適用されるようになってきています。即ち、従来の放射線設備を改修すること、副作用を抑え医療効果の高い放射線治療が実現しています。また、粒子線と比較して格段に安価の負担で済みます。したがって、「粒子線=高い医療=よい医療」と単純に考えることなく以下の点を十分に理解しておく必要があります。
・粒子線治療や高精度X線治療の導入は患者にとって治療の選択肢を増えた。それぞれ選択肢の一つである。
・粒子線治療と外の保斜線治療の比較検証が重要。
・それぞれの放射線の治療適応を患者は知る必要がある。
・粒子線治療には、多量の電力消費と大規模施設の建設費用と莫大な維持費
一説には、粒子線治療が明確に外の放射線治療と比較して治療効果が認められたのは、骨腫瘍と軟部組織腫瘍であるというものです。そうすると、患者数からすれば、日本に1箇所治療施設があればよいことになります。今後、従来の放射線では治療効果が得られない腫瘍や、小児の腫瘍に対する治療から普及していくことが、医療資源の適正化の面から優先されるのでしょう。
専門書になりますが、臨床放射線という雑誌の2010年7月号に「粒子線治療と高精度X線照射」特集がされています。これを読めば、粒子線治療と最近進歩してきたその他の放射線治療の比較がまとまって記載されています。なかなか、読んでいただく機会は少ないと思いますが、万一放射線治療を受ける当事者となられた場合には、放射線の専門医に相談されることが第一です。
なお、がん治療の医療費と効果の比較については別に解説したいと考えます。