平成24年度リサーチレビュー
第2巻第4号の内容 (Research Review Vol2 No4)
- 生命保険における保険金・給付金支払い業務
- 消費者向け研究報告解説
生命保険会社の支払い能力はソルベンシーマージン比率で評価されますが、本研究は個別契約の保険金・給付金の支払査定能力について分析しています。支払査定は商品性により、その難易度は異なりますが、保険の研究者を始め、消費者の方々には知られていないことです。死亡保険では、自殺・病死・事故死、高度障害保険金(重度の特定の身体障害で死亡保険金と同等額が支払われます)、災害割増特約(災害が原因で死亡されると保険金が割増して支払われる代わりに、災害死亡かどうか判断が必要です)の支払判断が、医療保険では、手術給付金の支払可否や一入院の通算限度、がん保険では、がんの診断の有無やがん治療の有無などが、査定者により判断されますが、判断に必要な能力は一様ではありません。この点は、経済の専門誌の記者もファイナンシャルプランナーであっても、実感できないことですし理解され難いところです。しかし、一部のマスコミ報道では、全くこのような実体としての支払査定能力に踏み込むことなく、安易な保険会社の能力比較をしているようです。当研究所の研究員は全て長期間実務の経験を有しており、これまでに数多くのマスコミ取材あるいは行政対応を担ってきています。古くは大蔵省の時代から、また保険業界が護送船団の時代から実務と商品および監督官庁による監督・規制を観察評価し続けています。その評価の結果として一部の経済誌が、その専門性を謳いながら浅薄な内容の報道を流すことに懸念を感じている次第です。本研究は、その意味において正しく支払査定能力を評価していただくためにまとめたものです。
第2巻第4号 RR2012VOL2NO4.pdf 2012年第2巻第4号
第2巻第3号の内容 (Research Review Vol2 No3)
- わかりやすい約款について
- 消費者向け研究報告解説
保険契約が締結された後で、契約の内容を確認するためには、保険証券と約款が必要になります。契約締結の時期や保険料の払い込み期間あるは保障期間等の確認のためには保険証券を確認しなくてはなりません。一方、約款には保険料の払い込み方法、保険金・給付金等の支払方法などの一般的規定とそれぞれの商品や特約について保険金・給付金の支払条件が具体的に記述されています。しかし、保険約款は分量が多く、記載された文章も法律の条文のような文体や専門用語が用いられて記載されているため消費者にとっては難解です。このような約款の問題点は以前から批判されてきましたが、元々保険約款を隅から隅まで読む消費者が、いらっしゃらないことも事実であり放任されてきた面があります。数年前の保険金不払い問題と金融庁の示した業界への指導により、わかりやすい約款への改定に各社の対応に拍車が掛かっています。本報告書では、これまで批判されてきた約款の問題点と分かり易い約款について解説すると共に最近の改定の流れについて報告しています。また分かり易さの反面浮き彫りになった課題についても報告しています。
第2巻第3号 RR2012VOL2NO3.pdf 2012年第2巻第3号
第2巻第2号の内容 (Research Review Vol2 No2)
- 医療保険における入院給付金不払いの類型①
- 消費者向け研究報告解説
入院保険の約款を見ますと、給付金の支払対象となる入院について定義が記載されています。具体的には、「医師による治療が必要であり、かつ自宅で治療が困難なため、病院または診療所に入り、常に医師の管理下において治療に専念することをいいます。」となっています。すなわち、入院すれば必ず給付金がもらえるわけではありません。これは、かつて病気を装って入院給付金を取得しようという請求が多発したため、不正を防止する目的で規定されたわけです。実際に保険金支払をしていますと、この規定に反する請求が後を絶ちません。いずれも不正請求や入院の必要性の無い請求となります。報告書ではその類型を1)医療機関主導型 2)患者主導型 3)複合型 の3者に分類し、類型1)の医療機関主導型の不必要入院を紹介しています。病院が経営のために空きベッドを埋める目的で患者を無理に入院させた結果の給付請求が多くみられましたが、報告書では最近目立ってきた新たな類型1)の入院として補完代替医療・民間療法による不必要入院を取り上げています。営利目的の医療機関の犠牲になっている患者の問題に焦点をあててその実態を紹介しています。一般の消費者の方にとって、このような医療実態があることさえ知らされてないのが実情です。患者は、不要入院をさせられた医療の犠牲者ですが、民間保険は多くの善意の契約者から集めた保険料で給付金を支払っています。当然約款の規定にそった適正な支払いが求められています。その結果、時には給付金請求に対して不払いや削減支払の判断をくだすことになってしまいます。残念ながら、日本では補完代替医療・民間療法を提供する医療機関が増えているにも係らず、規制する制度が無いという問題もあるため、報告書では課題として提起させていただいています。
第2巻第2号 RR2012VOL2NO2.pdf 2012年第2巻第2号
第2巻第1号の内容 (Research Review Vol2 No1)
- 保険の売買について
- 消費者向け研究報告解説
一般の消費者の方にとって保険の売買は、特に興味を引く話ではないでしょう。専門家の間でもほとんど話題になりません。レポートで報告しましたように日本では司法判断で実質禁止されています。さて、何故保険の売買が必要になるのでしょうか。これは、病気で就業できず収入の道が閉ざされた方が、医療費や生活費を得るために保険を換金するのです。通常の解約ですと受け取れる金額は解約返戻金といって少額ですが、買取業者があれば販売することにより解約返戻金より多くの金額を手にすることができるのです。お金に困っている患者にとって救済的な意義があるわけです。米国では普及していますが、日本ではインフラが整備されていないことや国民感情として保険の売買に拒絶感があること、さらに保険会社が売買を承認しないため買取事業は成り立っていません。一方、米国では老人の財産整理として加入している保険を業者に売却することも普及しています。解約返戻金より高く売却できます。投資家は、保険を直接購入する、買い取り事業へ出資する、あるいは証券化された保険を購入することにより投資することになります。日本人が、直接保険を購入することはほとんど無いはずですが、既に保険売買後に証券化された金融商品が日本で売買されています。このような患者の救済とは無関係な保険売買は、おそらく日本では今後も認められるまでに時間がかかると思われます。しかし、余命の短い患者の救済のために保険売買が許されるようになるのか、当研究所では今後の動向を注視してまいります。患者になってみないとこのような売買の必要性を一般の方々が感じることはないでしょう。しかし、患者になり医療費、生活費に苦しんでいる方がいらっしゃるのも事実です。保険を売買しなければならないということは、まさに保険の保障機能が不十分なことの証拠です。通常、日本の死亡保険には、リビングニーズという余命6ヶ月未満の方に死亡保険金(上限あり)の一部を前払いしてもらえる特約が付加されていますが、6ヶ月まで余命が短くならなければ特約保険金がもらえないため十分な患者の救済ができていません。今後生命保険会社がどのように保険売買を認めるのか、また認めなくても代替の救済的保障を提供できるのか注視したいと思います。
第2巻第1号 RR2012VOL2NO1.pdf 2012年第2巻第1号